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映画コラム「娼年」を観てめたメタになった日

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世の中には2種類の人間がいる。
映画「娼年」を観た人間と観ていない人間だ。

私はつい先日、観た方の人間になりました。
よろしくぅっ!!

いやはや、噂ではよく見聞きしていました。
桃李がそれはもういたしまくっている。と。

「だから観る」にも「だから観ない」にもなり得る前情報はままあるものですが、桃李がいたしまくっているはさすがに絶妙すぎます。
あなたはどうする?と問われているようです(そうか?)。

私が気になったのは、実際映画を観た人からは、センセーショナルな映像描写を賛辞するというよりも揶揄する感想が多く見受けられたことです。

なぜこんなに皆ブホー!!と吹き出しながら書いているみたいなレビューが多いのか?
てか、なんでもなにもレビューに答えが書いてあって、それ見るだけでこっちももう吹いてるんですけど、でももちろん中には良い作品だった評価しているものもあって、一体どんな映画なのか確かめたい…。

そして、某日、アマプラで再生ボタンをポチしてしまったのですが…

「娼年」はめたメタにさせてくれる映画でした!!!!

人のセックスを笑うなVS笑わせるな

と、本編の話に入る前に、ひとつ余談。
「娼年」のレビューの中にとんでもない牽制レビューを見つけてしまったんですよね。

「この映画を観て笑う人はむっつり、自分の中にあるエロさを誤魔化しているだけ(※意訳)」

え、はず。そんなん言われたらはず。
えっちって言う方がえっちなんだよ〜、バカって言う方がバカなんだよ〜論法って地味に効きますよね…!!
笑ってしまったらムッツリ確定…!! 恥ずかしい!! エロを誤魔化したくない…!!
これは絶対に笑ってはいけない。ぐぐっと緊張感が走りつつ、鑑賞を開始しました。

映画鑑賞中と営み中はメタ不要論

大爆笑してしまいました。

あらすじは、松坂桃李演じる大学生がなんやかんやで男娼クラブに勤めるという話です。あらすぎ。
付け加えますと、主人公は男女の営みはしますが心の交流をしたり真正面から恋愛をすることはなく、「女なんて皆一緒」とか言っちゃう退廃的な雰囲気を醸し出すメンなのです。
そんな主人公が意味ありげさしかない年上の綺麗な女性にクラブにスカウトされ、テストを受け、一回目の仕事をこなし、2回目の仕事をこなし、どんどん仕事をこなし、セックスや欲望の奥深さを学び、売れていき、自分の心の内と向き合い、友人にバレ、非難され、でも仕事への誇りは持ち、持ち続け、さて主人公が歩む道は…? ※原作は石田衣良氏

みたいなお話なのですが、全シーンと言っていいほど笑ってしまいました。

同じく原作は小説で映画化された「人のセックスを笑うな」という作品がありますが、すごくいいタイトルですよね。
私も心からそう思うんです。

でもさ、笑わせようとしないことも必要じゃない??
笑って欲しくないんだったら笑わせないでよ…!!ってなりました。

非日常な設定だから笑っちゃうんじゃないんです。
例えば「愛人/ラマン」とか「ラストコーション」で笑いますかって話ですよ。笑わないでしょ。

じゃあなんで娼年は笑ってしまうの?ってことですが、何そのペラいお色気なBGM…むふふっ。
「次は私が話す番ね。あれは夏の日だったわ…」って何その言い回し…いひひっ。
え、男の人を買う女の人ってそんなにしっとり世界観出して喋る人ばっかりなの?ブホッ!とか、そういうところから、笑う準備ができちゃう演出が盛りだくさんなんです。
これはもう前戯ですよ前戯!!笑う前戯が万端すぎ!!
だもんで、肝心なシーンでぶほーーーーー!!!が不可避なのです。

つまりですね、「娼年」はメタ認知が働いてしまう映画なんですよね。
メタ認知とは、「自己の認知のあり方に対して、それをさらに認知すること」を指します。

普段はこのメタ認知を大事にしている私ですが、映画とセックスだけはメタ認知要らんのよ!!どえりゃーノイズなのよ!!
だって、その2つは、メタ認知が封印されてなんぼの代表格じゃないですか。
我々の(巻き込んでごめんね…)行為だってメタ認知が発揮されたら床どつき回して大爆笑ですよ。

「こんな映画を観ている私」って認知、鑑賞中にいっっちばん要らないやつ。
それなのに「娼年」は、なんで私はこの映画を見てるんだろう?っていうノイズの押し寄せがすごい。そのノイズの浄化方法が、笑ってしまうということ。

物語の設定と織りなす映像表現に認知が混ざり合い、鑑賞中はメタ認知の入る余地がないものこそ、価値観に影響を与えたり、心を揺さぶるいい映画なのだと思います。

娼年はその点、テーマに対して映画的技量が追いついていないところがあったのかなと思いますが、もしかしたら私のこのような感想すら狙いのひとつなのかもしれません。

鑑賞中はなんでこの映画を観てるんだろう?と思ったわりに、不思議と鑑賞後に観て損したという落胆はありませんでした。
様々なノイズがチャーミングな方向にいっているという見方もできる映画なのではないかな思います。
こうして感想を書きたくてしょうがなくなった時点で、どうでもいい映画ではないですね。

あと、桃李は悪くない…!! 下手っぴなのは桃李じゃない…!!
これだけは言いたい。文字通り以上に身体を張ってるし、徳馬だって頑張った!!
私は、演者の方々には賛辞を送りたいですね。
一方で、なんでこの映画に出たんだろう?というノイズもやっぱりすごかったです。

この夏、ノイズムービー、メタムービーというジャンルをお求めのあなたには「娼年」を推します。