【漫画×仕事】なりたい者になるとはどういうことか(前編)
仕事、してますか?
してる方は、どんな仕事をしてますか?
その仕事を好きですか?したかった仕事ですか?続けたい仕事ですか?
「いや別にそういうんじゃなくてほぼほぼ生活のために仕事をしている」という方もたくさんいると思います。
私はどちらかというとそっち派です。
仕事にも楽しみや喜びや充足感はありますが、ある種「仕事」と「それ以外の自分の生活」は切り分けていると言えるでしょうか。
こっち側の人って「私ってなんか何も秀でた実績がないなぁ」と落胆してしまうことってありませんか?
技術職や資格職やクリエイターの方で活躍されている方ってそりゃあもう眩しいですよね。
間違いなく眩しいです。
でもですね、こっち側の人って「なりたい者」へのそもそもの欲求があるかどうかだったりするのかなぁと思うんです。
なりたい者といっても、FBIになれたらいいなぁーとかそういうんじゃないですよ、さすがに。
「目指す」込みでのなりたい者です。
案外なかったんじゃない?
私はよーく考えても考えなくてもないんですよ。
興味のある業界に関わるぐらいのことはしてきましたが、「こと」以上の「者」への欲求がないんですよね。
欲求が(本当は)ないので、明確ななにかになっていない現状に(本当は)落胆もない。なんなら別に充実している。
こういう人って実は意外といるんじゃないかなーと思うんです。
でも気付きにくいことでもあるのでしょう。
だってやっぱり仕事で活躍している人は眩しいからね!
だから、「明確に目指すことでしか就けない仕事に就いている人」に出会うと考えるんです。
なぜ人はその仕事に就きたいと目指すのか。
一方でなぜそのルートがないままの人も多くいるのか。
漫画家さんに聞く!なぜ漫画家を目指したの?
前置きが長くなりましたが、FinalAのシュシュさんにインタビューを決行しました!!
何を隠そうシュシュさんの正体は……漫画家さんなのです!
※本人談:隠しているわけでもなく、かといってすごく公開しているわけでもなくなんとなくここまできてしまいました
まさに「明確に目指すことでしか就けない仕事」です!!
本日は、戯あひさ先生に戻っていただき、いかにもなるのが難しそうな漫画家さんへのルートをお聞きしちゃいます。
戯あひささん
フリーの漫画家。
少女漫画、女性向け、エッセイ、TLなどのジャンルで活動中。
Book:イジワル同期ととろ甘同居・あさってビューティー
漫画家になれなければ死のうと思った
ーー漫画家になろうと思ったきっかけはなんですか?
あひさ先生:本当にないんですよ(笑)
気づいたら漫画家というものになりたくてしょうがなかったんです。物心ついたときには、「なりたい」ってメラメラしていました。
ーー絵を描くことは昔から得意でしたか?
あひさ先生:得意だったし、好きでした。でも、そうそうに「自分って一般的には上手い範疇だけど、天才って呼ばれる類の人間じゃないな……かといって絵以外何も得意じゃないし……どうしよう」って小学生から悩んでましたね(笑)
ーーデビュー前に初めて描いた漫画の内容はどんな内容ですか?
あひさ先生:最初、コマが割れなかったんですよ。絵とストーリー、という、絵本形式で描いていたので、それを漫画と呼んでいいのか謎なのですが……。今思い出せる範囲で一番古いのが、犬が男の子の優しさにときめいて、人間の女の子になって男の子にアプローチする、という物語です(笑)
ーー初めて応募した漫画の内容はどんな内容ですか?
あひさ先生:対立するカエルの王国があって、ひと騒動ある、というギャグ漫画でした(笑) しかも少女漫画雑誌に投稿したんですよね……何考えてたんでしょうね……。
ーー影響を受けた漫画家さん、または作品を教えてください。
あひさ先生:聖ルームメイト、セキホクジャーナル―こちら関北高校新聞部 、2次元のおきて―少女漫画の受難です。
少女漫画なのに百合、少女漫画なのにギャグ、メタ視点型がある上での型破り、それでいて絵が少女漫画で可愛い、という斬りこんだ作品が大好きでした。
セキホクジャーナルでは、キラキラ男子だけがかっこいいのではない、というのを教えて頂いたと思います。読者の予想を上回る企画性やギミックを出したい、と思ったのは、こちらの作品の影響が大きいです。
ーーストーリー表現という点においては、映画、小説もありますが、なぜ漫画家になろうと思ったのでしょうか?
あひさ先生:わかりやすい、可愛い、自分のペースで読める、全部自分で作れる、創作の不文律が自分にとって一番魅力的だったのが漫画だった、というのが主な理由だと思います。あと、なんだかんだ、絵が好きだったんですよね。
※「あさってビューティー」より
ーー「どういう漫画家」になりたいと思っていましたか?
あひさ先生:一筋縄ではいかない漫画を描ける作家になりたいと思っていました。
あと、なんとなく業界に居続けている、ショボイ絵の作家、くらいになれたら……という思いもありました(笑)
でも、いかんせん自分の才能に見切りをつけていたので、デビューできたらとりあえずもうそれで気が済むというか……。
いったん漫画家というものにならせてくれ! と切実に思っていました。
連載で食える作家になれるなんて、思ってもみませんでしたね。
ーー漫画家デビューしてから想像通りだった点、違った点を教えてください。
あひさ先生:だいたい想像どおりでベタに不遇でした(笑)
ただ、とんでもない努力をしたら、ちゃんと食える作家になれる、というのは意外な点でした。天才中の天才しか食えないって思ってましたので。
でも正しい努力が必要なので、そこに導いてくれる方と出会えたのは運が良かったとしかいいようがないです。
ーー以前(プライベートで)「漫画家になれなかったら本当に死ぬつもりだった」と話していましたが、そう思い始めたのはいつからですか?
あひさ先生:これは大学生のときですね。
大学受験のとき、美術系の大学に入れなかったら漫画家の夢はあきらめようと思ってまして。大学ひとつクリアできないのなら、漫画家なんて無理だろう、と思って。
で、大学(美術教育コース)に入れたので……次は漫画家になれるかどうかだ、となって
貧乏だったので、親が私をデビューまで面倒見るコースもないし、働きながら漫画家目指すって無理すぎるんですよね。漫画って一作自分でかくとなると、数か月かかるので、社会人になっちゃったら一年で一作もできるかどうか……。
なので、大学在学中にデビューしないと、私はどうにもならないと思ったんですよ。
漫画家じゃないまま生きる、というのも、できそうにないなあと思いまして。
あ、じゃあ在学中にデビューできなかったら死のう、それしかない、って思って、必死でデビュー目指しました。
ーーシンプルな質問をしますが、漫画家じゃないと生きられないのはなぜですか? 生きられないものは生きられないという感じ?
あひさ先生:ですです。生きられないもんは生きられない、って感じです。漫画家じゃない自分が苦しすぎる、って思ったんです。
協調性がない、とか、空気が読めない、とか、集団行動へたすぎ、とか、色々あるんですけど、シンプルに漫画家じゃないのつらい、です。
ーー漫画を描く、発表する、反響を得るという「こと」ではダメだったということですよね?
あひさ先生:おっしゃるとおりです。それじゃダメだったんですよ
ちゃんと大手出版社から出てる雑誌で、漫画家としてデビューして……っていうのが、どうしても欲しかったんです。
「者であることへの執着」が継続力に繋がっている
ーーシュシュさんは「やりたいこと」以上に「なりたい者」を目指していたということでしょうか?
あひさ先生:私はそうですね。漫画家っちゅーもんになりたくて死にそうだったので。
ただ、漫画を描きたいから漫画になった、という方もいらっしゃるにはいらっしゃいますね。
そのほうが苦しくなく努力できるなあ、という印象です。でもその方だって、漫画家という者になりたかったから、なったのでしょうし、そういう方にもあてはまってると思います。
ーーこれまでお話を聞いていて、漫画に限らずですが、必死で目指してなるような職業って、ポテンシャルだけでは厳しいですよね。就いた後もその者であろうとしないと続かないような。
あひさ先生:それはあると思います。継続力のない天才は、居続けられないんですよね。
継続力のある秀才はずっといるというか……居続けるには、やっぱり、「者であることへの執着」はしっかりあるんでしょうね。ちなみに私はめちゃくちゃあると思います(笑)
商業用じゃない漫画を描いてる時、それはすごい楽しいんですよ。ことだからですよね。商業の漫画はほんっっっっとーーーにつらいです。
なんでだろ? テーマ? 自由度? って思ってたんですけど、「者」と「こと」の違いでした。
ーーなりたい者があり続けるってしんどいことでもありますよね。
あひさ先生:なりたいものがある時点である意味不幸といいますか………そこにむかって頑張るか、あきらめるかの二択しかないんで……。
私のように、漫画を描きたいっていうより、いったん漫画家にならせてくれ、って欲求が強いと、とっても苦しいです(笑)
その分、なれている喜びもあり続けるのですが、結果を求めすぎるとプロセスが苦しくなってしまうのは、何事も一緒だなと思いました。(漫画を描くことが好きな人は、きっとこの苦しみは少ないのでしょう)
だから、なりたい者というのは無理やり作るものではないと思います。
※「あさってビューティー」より エッセイ漫画の中でも「なりたい」と言っていました。
ーーなるほど! 漫画家じゃないと生きられないものは生きられないし、なりたい者がないものはない、ということですよね。
インタビュー後記:如何でしたでしょうか?
なりたい者になるって……めちゃくちゃ大変そうや。
そう思われた方は多いのでは?
これだけ芯を喰った話をお伺いして、まとめが「大変そう」ってどうかと思うのですが、後編に続きます。
次回は、令和の漫画家さんワークとは一体どんなものなのか?を具体的にお聞きしていきます!