【あなたの知らない墨アートの世界】水墨画アーティスト長嶋芙蓉さん
本日のファイナラは芸術の春。
化粧品広告なども手がける書画家・水墨画アーティストの長嶋芙蓉(ナガシマフヨウ)さんにお越しいただきました。
ヒツコスが一目惚れした「墨アート」という新しい世界を一緒に覗いてみましょう。
長嶋芙蓉(ナガシマフヨウ)さん
◼︎水墨画家・美術モデル・神奈川県出身
◼︎今夏7月に千駄ヶ谷で個展「第1回自由研究発表会」予定
◼︎関東を中心に水墨画パフォーマンスやWSを開催。最大4mの壁に墨絵を描きます。
◼︎化粧品広告、手描き扇子、CDジャケット、web広告などを手掛ける
◼︎墨アート×ピンクリボン「Brush」
HP:長嶋芙蓉
Instagram:@fuyounagashima
美術モデルの仕事先で水墨画の師匠と運命の出会い
ーーよろしくお願いします! 今回は私が芙蓉さんとその活動に興味津々なので、興味津々なまま質問をひたすらさせていただきます。芙蓉(ふよう)さんとお呼びしますね! 素敵なお名前ですよね。
芙蓉さん:ありがとうございます。これは雅号(がごう)で本名は全然違うんです。
ーーがごう!? 初めて聞きました。芸名みたいなことですね?
芙蓉さん:はい。書道や水墨画って一人前になると先生から名前をいただくんです。
ーーへーーー! そこからもうすでに知らない世界。芙蓉さんが現在の水墨画家というお仕事に就くまでのきっかけを教えていただけますか?
芙蓉さん:まず、書画に関しては、小さな頃から書道を習っていたんです。お習字教室ですね。
お習字教室に通っている人の大体がそうかもしれないんですが、私も進学があるので一旦お習字はやめたんですね。
それで、大人になってからまた再開したんですが、最初はお習字だけをやっていて、あとあと、水墨画も学ぶことになります。そのきっかけなんですが、私、美術モデルというお仕事を15年ぐらいやっていまして。
ーー15年ってベテランですね! 美術モデルというのはどういうものなんですか?
芙蓉さん:簡単にいうとヌードモデルなんですが、美大やカルチャーセンターでモデルとなるお仕事ですね。街中にある彫刻や絵画のモデルが実は私だったりすることがあります(笑)
ーーヌードモデル! これまた興味津々です。私も知らずして芙蓉さんを目にしている可能性があるわけですね。
芙蓉さん:あります(笑) それで、美術モデルのお仕事のひとつで伺った先の水墨画の先生があまりに素敵な方で、そのまま弟子になってしまったんです(笑)
ーーすごい! 運命的な出会いだったんですね! 弟子にしてくださいって感じで志願されたんでしょうか?
芙蓉さん:写真みたいな水墨画家を描く先生で、作品にも感動したんですが、何より先生のお人柄的に魅了されたんですよね。もう少しこの方とお話がしたいと思って、一時文通させてもらっていたのが始まりです。
ーー文通! ほっこりしますね。
芙蓉さん:それで、その時が、私の祖母の体調が悪く亡くなるか亡くならないかという時だったんです。祖母の看病をしていて、実家暮らしをしていたので自宅で看取りました。
実は、祖母が亡くなる半年前に、偶然にも先生の奥様も亡くなられたんです。そのタイミングもリンクしたのかなと思うんですが、先生から教室を観にくれば?と言っていただいて、まるで先生の奥様と私の祖母が、私と先生を引き合わせてくれたような気がして、それで水墨画を始めたんです。
やるぞーと意気込んで始めたわけじゃなくて、不思議な流れにのって先生のもとで水墨画を始めた感じです。
ーーなるほど。お二人にとっての環境や人間関係など、様々なものが重なって、そこで自然と師匠と弟子の関係に至ったんですね。
芙蓉さん:はい。私はスーパーおばあちゃんっ子なので、亡くなった祖母が、自分がいなくなったあとも、私が路頭に迷わないように水墨画に導いてくれたような気がしています。
作品のこだわりと想い
それでは、芙蓉さんのこれまでの作品について、いくつか紹介していただきたいと思います。Instagramを拝見するとかっこいい作品がたくさんなのですが、私が気になったものをピックアップさせていただいてよろしいでしょうか?
芙蓉さん:はい!もちろんです!
『うっせぇわ』
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ーーパッと目についたうっせぇわの水墨画。超かっこいいです! こちらはプライベートで描かれた絵だと思うのですが、どういう時に描いたんですか?
芙蓉さん:ありがとうございます! かっこいいことが言えないんですけど、こういう流行りの絵は正直書道の稽古に行き詰まってる時とかに描いてます(笑) 流行りの絵って描きたくなるし、うっせぇわの歌も好きなので、描きました。反対に絵ばっかりを描いていると、字が描きたくなるんです。
ーーそういうものなんですね!
芙蓉さん:書道と水墨画って同じ道具を使っているんですけど、似て非なるものなんです。私も、最初は同じ道具だから同じ感じだろうと思っていたんですけど、字は線で絵は面なんです。大事にするところも全く違っていて、だから両方やっているのもあるんですよね。
『雪肌精 みやび のモデリングカラーデザイナーの広告』
ーー次なんですが、雪肌精みやびの広告を担当されたんですよね。化粧品好きとしては勝手にテンションがあがります!
芙蓉さん:私も化粧品の広告の絵を描くことは夢のひとつだったので本当に嬉しかったです。けっこうな枚数を描いて苦労したんですが勉強にもなりました。
ーーこちらはどういう経緯で決まったんですか?
芙蓉さん:担当の方よりホームページから普通にオファーしていただきました。
墨だからこそ色が引き立つというところをイメージしてくださったのかなと。
ーー担当さんセンスがいいー! 「肌、ほんのり色ふ」というコピーと世界観バッチリですね。こちらの作品作りにあたって、とくにこだわったところなどはありますか?
芙蓉さん:露草や桜を描いた時はその草木が咲いていない時期なんですが、写真だけではなくそれまでに自分が書き留めたスケッチを見て描いています。
ちょっとしたことなのですが私が大事にしていることでもあって、上手い下手関係なく実物を見て描いた物は本物。
本当が描きたいので、なるべく自分で書き残したメモを参考にしてます。スケッチは私にとってのネタ帳のような感じです。
ーー写真ではなく本当を見て描くのが芙蓉さん流なんですね。ちなみにモデリングカラーっていいですか?(直球)
芙蓉さん:めっちゃいいですよ! 私はピンク色の舞桜(MAIZAKURA)を使用しているんですけど、顔色がよく見えるし、パールが入っていて肌をキレイに見せてくれて、近所ならこれだけで出かけられます。
ちなみに、関東と東北で売れている色が違うみたいです。
ーーえ!
芙蓉さん:北海道や東北ではブルーの露草(TSUYUKUSA)が売れていて、関東ではベージュの絹綾(KINUAYA)が売れていると聞きました。舞桜(MAIZAKURA)は全般的に売れれていると伺いました。
ーー寒い地方の人って色が白いからですかね?
芙蓉さん:たぶんそうだと思います。面白いですよね。
みやびシリーズはスキンケアもすごくいいですよ。和漢成分で肌が落ち着く〜って感じがします。
あと、今年の7月から中国でもモデリングカラーが発売されるんです。
ーー芙蓉さんの広告がそのまま中国でも展開されるんですか?
芙蓉さん:そうなんです。
ーーそれは楽しみー!! モデリングカラーが俄然気になってきましたのでチェックいたします!
『SON』
ーー次に復興大臣賞を受賞された『SON』。美しさもおどろおどろしさもあって、一際目を引きました。
芙蓉さん:ありがとうございます。100号サイズ・160㎝の作品です。
私が、なんで絵を描いているかというのも言葉で伝えることが上手じゃないので、言いたいことや想っていることを伝える術として描いているのもあります。これは熊本の震災があった時期に描き始めました。
私は、いつも絵の中に街や人や生き物など色んなものを描くのですが、人になれなかったものやかつて人だったものもSONには含まれています。
災害があった後、「ここが直りました、これを開始しました」など復興についてのニュースが流れるけども、本当に大事な部分は人間の心の部分だと思うんです。
もしかしたら生まれてこれなかった命や、生まれてすぐ亡くなってしまった命があったかもしれない。けれどこういう時って「みんな大変だから」って言葉で片付けられちゃうところがあるじゃないですか。
「みんな一緒だから」で済まされちゃうのは違うんじゃないかという想いがすごくありました。
でも、仕組みや制度や空気感を考えた時に、日本では現状どうやったって男性が優位だし、「もっと声をあげていいんだよ」と伝えたいけど、見張られているのか支配されているのか、優位で外圧的な視線の中でしか生きられないという矛盾を抱えている絵でもあります。
この絵を逆さまにすると男の人が現れるんです。
ーーえ! (逆さまにする)……ほんとですね! ロン毛のお兄さんが。※皆さまも逆さまにして見てみてください
芙蓉さん:そうなんです。男の人の方が女の人より目が大きくて、縮図を表しています。
外に出していいよ、声に出していいよ、みんなそうだからって我慢しなくていいんだよ、と心から思いますが、それを強く言葉で発することができるほど私に何かがあるわけじゃない。だから言いたいけど言えない声にならないそんな思いを絵の中に閉じ込めました。
この意図を全面に出していたわけではないんですが、ご縁があって復興大臣賞という賞を受賞することができたのですごく嬉しかったです。
墨アート×ピンクリボンのパフォーマンスチーム「Brush」を結成
ーー芙蓉さんはライブペイントもされているんですよね。
芙蓉さん:はい、先月もメズム東京で行ってきました。
2月24日に墨アートパ×ピンクリボンのパフォーマンスチーム「Brush」を結成したのですが、第一弾の活動です。
ーー「Brush」というチームのアートからはどのようなメッセージを発信されていくのでしょうか?
芙蓉さん:アートを通して社会貢献をしたいという気持ちが以前からあるのと、私自身がピンクリボン世代ということもあり、Brushでは乳がんの早期発見と治療ができるようにピンクリボン運動とアートをコラボさせていく活動をしていきます。
華書家の永島美織さんとデザイン書作家の穂幸(すいこう)さんと3名のチームです。
華書家の永島美織さん
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デザイン書作家の穂幸(すいこう)さん
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ーー美織さんと穂幸さんの作品もそれぞれすごく素敵ですね!
芙蓉さん:ありがとうございます。
それぞれ違うことをやっているんですが、同世代で活動していて、パフォーマンスを通して見ている方にエネルギーを伝えていきたいという気持ちは一緒です。
舞台って生物(なまもの)なので、見ていただくと分かるんですが、本当にエネルギーがそのまま伝わるんです。
啓発はもちろんですが、ただ啓発することだけがピンクリボン活動じゃないと思うので、私たちだからこそできることを考えて活動させていただきたいと思っています。
ーー私も全然他人事じゃないピンクリボン世代なので、Brushのライブペイントはぜひいつか見たいです! チームでのライブペイントというのがまたエネルギーを感じそうですよね。
芙蓉さん:人間って3分の1は水じゃないですか? 水墨画って水と墨なんで、楽しいって思いながら描くと楽しい絵になるし、つまんないなって思いながら描くと本当につまんない絵になるんです。やる方も見る方も誤魔化しがきかないので、だからこそ生のパフォーマンスを見て欲しいって思います。
ーーそれと、芙蓉さんは7月に個展があるんですね。
芙蓉さん:はい! 今はそちらに向けて作品作りをしています。
あとは、墨アートを身近に感じてもらえる企画もしています。
現在も絵のモデルをしながら水墨画をやっていて、ちょこちょこ仕事をいただいてはいたのですが、ぬるっと境がない感じで始まってしまったので、4月から屋号を作り、アトリエを構えてリスタートしようと思っています!
ーー未来に向かってエネルギーいっぱいですね! 最後に余談なんですが、美術モデルさんって身体を鍛えたりするんですか?
芙蓉さん:最近はちょっとできてないんですけど、やっぱりジムとか行ってましたね。立っていられないので、彫刻のモデルはなかなか難しいってたぶんできないんですよ。脂肪と筋肉が適度に必要とされます。
ーーなるほどー! 人間の身体を描写するのに欠かせない要素ですもんね。
芙蓉さん:そうなんです。習慣としては、午前中に自宅でできる筋トレや出先からの帰宅ランなどをしています。
ーーさすがです。体幹がないとポーズを維持できないですよね。
芙蓉さん:あり得ないパーツが凝りますよ。過去に背中が捻挫した事も(笑)
ーーいやぁめちゃくちゃ面白いです! 今回は新しい世界のお話をたくさん聞かせていただきありがとうございます! またぜひ取材させてください。
芙蓉さん:こちらこそありがとうございました!